=万歴龍呼堂の器=
以前から親交のあった万歴龍呼堂の三好さんから2006年の夏ごろに
器の相談を受けたことが今回のプロジェクトのきっかけでした。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、この東麻布に構える
隠れ家のようなレストラン“万歴龍呼堂”は、空間や器など
様々な部分にこだわりを貫き、食事だけではなくトータルでの
完成度を目指しているところです。
食事や空間は、人それぞれのお好みがあると思いますし、
門外漢の私がコメントすることは差し控えたいと思いますが、
器は、格段の品質です。主観的な部分を排除してコメントするにしても、
料理それぞれに工夫を凝らした器を使う姿勢や、器のクオリティの
違いは、同レベルの価格のレストランを確実に凌駕しています。
今回は、予算の許す範囲で、新しい漆器を重点的に開発したいとの
相談から始まりました。
平安堂は、主に個人様に漆器をご提供しておりますので、ご家庭を
イメージした“使いやすい器”を製作することが大半ですし、
多くの方が、使うシーンを想像できる器が多くなります。
このプロジェクトで非常にエキサイティングだと感じたことは、
器を作りあげるコンセプトが、もっともっと限定的というか、
万人に受け入れて頂く必要性がまったくない器作りであったこと。
万歴龍呼堂という、非常に限定的な空間でのみ、その個性が
発揮されれば良いという器作りだったことです。
耐久性を考えるより、お客様が器を手にした時の驚きを演出できるよう、
極限まで薄く挽いた木地。
広い空間で、器がより主張される、あるいは器そのものが空間の中で
アクセント足れるよう、大胆に蒔いた粗めの錫粉(すずふん)。
そして品格を備えるために、最上級の職人たちに製作をさせるこだわり。
これらいずれもが、「 手軽、気軽に使える 」「 色々なシーンで使える
」
「 手ごろなお値段でご提供する 」という、一般的に考えるポイントと
全て相反する要素でした。
当初は、万歴龍呼堂に卸すためだけに図面を描き、製作を始めた器
だったのですが、その器が、主観で、そして手前味噌で
申し訳ないのですが、あまりに美しく、皆様にご紹介をしたくなり、
通常のラインナップに加えた次第でございます。
前述の通り、どのようなシーンでも使える器ではないと思いますし、
気軽に使うには少々難しい器でもあります。
単純な商売を考えると、絶対に採算の合わないシリーズになるだろうと
覚悟はしておりますが、このような、“良い意味での無駄が詰まった器”
は、現在、なかなかございません。
このような“良い意味での無駄が詰まった器”は、味があるとか、
趣きがあるという表現、あるいは、贅沢な器という表現がぴったりです。
万人にはお勧めできませんが、このような器がツボにはまる方が
いらっしゃれば、損得抜きに製作した甲斐がありますし、
器屋冥利に尽きるというものです。
自己満足に近い“山田平安堂の器”
これも、新しい山田平安堂をなす大事な要素になってくれれば幸いです。
|